花火大会、点火を仕切る「頭脳」の正体 夏の風物詩にもIT
夏の風物詩といえば花火大会。この時期、全国各地で数えきれないほどの大輪が夜空をにぎわせている。東京都内では「隅田川花火大会」と並んで人気の「東京湾大華火祭」が8月14日に開催される。その大会をプロデュースする丸玉屋(東京・中央区)に、凝った演出の打ち上げ花火を裏で支えるIT(情報技術)を見せてもらった。
東京湾大華火祭より一足早く、8月1日に中山競馬場(千葉県船橋市)で開催された花火大会「The Grand Sky Musical 2010」は、競馬場の幅600メートルをいっぱいに使う演出で約3万9000人の観客を沸かせた。「これだけの広さにわたる花火を同期させるのは、人手では不可能」と丸玉屋の小勝敏克社長は語る。
中山競馬場の馬場600メートル幅をフルに使った打ち上げ花火。コンピューター制御で点火している
馬の形に似せた花火を左から右に次々に打ち上げて競馬レースを再現する演出、会場をピアノの鍵盤に見立ててチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」に合わせて花火が舞う演出――。これらに欠かせないのがコンピューターによる打ち上げ制御だ。
丸玉屋が使う制御システムは米国製で、打ち上げのタイミングを30分の1秒単位でコントロールできるという。観客席に向けて流す音楽やアナウンスに合わせて、あらかじめプログラミングした通りに、煙火玉(玉)の入った花火筒(筒)に命令を送る。さらに現場近くにいるオペレーターが制御システムを操作してタイミングを微調整している。
コンピューター制御は全体の約2割
日本の花火大会では20年ほど前からIT導入が始まった。花火評論家の冴木一馬氏は、「全国の花火大会のプログラムのうち2割くらいがコンピューター制御ではないか」と語る。音楽に合わせた演出を望む主催者の要望もあって、その割合は少しずつ増えているという。
中でも丸玉屋は年間約170件のプロデュースを手掛ける大手。花火大会は夏に集中するため、早いものでは4月ころから作業を始める。まず会場配置を見ながら、花火の色、高さ、大きさ、着火してから開くまでの時間などを計算して進行表を作る。それを基に、一つひとつの花火を打ち上げる場所とタイミングを、システムと連携する専用ソフトでプログラミングしていく。
システムの導入で現場は省力化するように思えるが、実は「準備にかかる時間は3倍に増えた」(小勝社長)という。システム制御では、打ち上げる玉と筒を1対1で対応させる必要があり、「筒に個別のアドレスを割り振って、どの玉をどの筒に入れるかを決める」(小勝社長)。
かつては、打ち上げの瞬間に職人が筒の近くで花火に火を着けているのが一般的だったが、丸玉屋が手掛ける大会ではそうした光景はなくなった。現場のオペレーターは逆に、いざというとき点火を止める安全管理の役割を担う。
100%システム化でも情緒は消さず
コントローラーは1台で最大2047本の筒を制御できる。3249発を打ち上げた今年の中山競馬場の大会は、コントローラー1台ではまかないきれず、2台で制御した。
小勝社長は「コントローラーから中継用の分岐装置までの配線を無線にできると、作業負担が大きく軽減する」と期待する。会場で使うコードは数十メートルに及んでおり、これを無線化できれば、引き回しの手間を大きく減らすことができるからだ。
丸玉屋が現在扱う花火はすべてシステムを通して打ち上げる電気点火となっている。ただ最初から最後まで機械的に打ち上げるのではなく、オペレーターがマニュアル操作で1発ずつ点火する演出も取り入れている。
「花火が開いた瞬間に次を出すなど、花火を知っている人間がその場にいてこそできる間の取り方がある。花火の情緒を損なわない演出を心がけている」と小勝社長は語る。
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