ハイチの治安支える信仰 「神をたたえよ」被災地に響く
ポルトープランスで15日、倒壊した教会の前で祈る女性= ロイター
大地震で政府機能がほぼなくなったハイチでは、 略奪行為の広がりや暴動が懸念される。震災前も、 暮らしの困窮が暴動を引き起こした。だが、 今のところ混乱は被災地全域には広がっていない。 宗教意識が強い土地柄で、人々の信仰が、 かろうじて暴発の歯止めになっている。
「いくつかの小規模な出来事を除いては、 ハイチの治安状況は平穏だ」。ジョン・ホルムズ国連事務次長( 人道問題担当)は16日、英BBCにそう語った。
南北アメリカの最貧国が大地震に襲われ、海外メディアはみな、 治安が一気に悪化する懸念を伝えていた。
ところどころで緊迫した状況に出くわすことはある。15日には、 がれきの山と化した最高裁判所の敷地で、 拳銃を手にした男たちが、 お互いを突き飛ばさんばかりの勢いで何ごとかどなり合っている現 場にも出くわした。ガソリンスタンドで、 わずかな燃料をめぐって順番待ちの人々が言い争う光景も珍しくな い。
だが実際には、街の空気は意外なほど静かだ。
人々がショックからまだ抜けきっていないことが大きいように見え る。家を失い、空き地でテント暮らしをする人たちや、 身の回りのものを詰めたスーツケースを持って通りを黙々と歩く人 たちは、多くが放心した様子だ。 不満のマグマを内にためた表情はあまり見かけない。
ポルトープランス北部にあるデルマ警察署のある警察官は「 宗教的な要因もある」と語った。信仰がモラルを支えている、 という見方だ。
14日夜、首都郊外ペティオンビルの住宅地で、 何十人もの人々が祈りを唱和しながら闇に包まれた通りを練り歩く 光景に出合った。「神をたたえよ」「悪魔を踏みつぶせ」。 デモ隊のシュプレヒコールのような叫び声は、 深夜になっても街に響いていた。 ハイチは国民の3分の2がカトリックで、 土着宗教のブードゥー教の信仰も根強い。 ペティオンビルのカトリック教会の司祭、セマテ・ ダブルマルさんは「ハイチの人々は宗教的です。 こういう災害の時は、特に宗教的になるものです」と語った。
ただ、 ブードゥー教にのっとった儀式を経ない埋葬を多くの遺族が拒んで いることが、遺体の放置につながっているという報道もあり、 宗教意識の高まりが事態を複雑にしかねない面もある。
ハイチでは2年前、食料値上がりに反発した市民の暴動が起き、 7人が死亡した。被災者の耐乏生活が長引けば長引くほど、 不満が爆発する危険は確実に増す。(ポルトープランス)
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