2010/08/08

IT controlled Fireworks: the-state-of-the-art

花火大会、点火を仕切る「頭脳」の正体 夏の風物詩にもIT





 夏の風物詩といえば花火大会。この時期、全国各地で数えきれないほどの大輪が夜空をにぎわせている。東京都内では「隅田川花火大会」と並んで人気の「東京湾大華火祭」が8月14日に開催される。その大会をプロデュースする丸玉屋(東京・中央区)に、凝った演出の打ち上げ花火を裏で支えるIT(情報技術)を見せてもらった。

 東京湾大華火祭より一足早く、8月1日に中山競馬場(千葉県船橋市)で開催された花火大会「The Grand Sky Musical 2010」は、競馬場の幅600メートルをいっぱいに使う演出で約3万9000人の観客を沸かせた。「これだけの広さにわたる花火を同期させるのは、人手では不可能」と丸玉屋の小勝敏克社長は語る。

中山競馬場の馬場600メートル幅をフルに使った打ち上げ花火。コンピューター制御で点火している
中山競馬場の馬場600メートル幅をフルに使った打ち上げ花火。コンピューター制御で点火している


 馬の形に似せた花火を左から右に次々に打ち上げて競馬レースを再現する演出、会場をピアノの鍵盤に見立ててチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」に合わせて花火が舞う演出――。これらに欠かせないのがコンピューターによる打ち上げ制御だ。


 丸玉屋が使う制御システムは米国製で、打ち上げのタイミングを30分の1秒単位でコントロールできるという。観客席に向けて流す音楽やアナウンスに合わせて、あらかじめプログラミングした通りに、煙火玉(玉)の入った花火筒(筒)に命令を送る。さらに現場近くにいるオペレーターが制御システムを操作してタイミングを微調整している。


コンピューター制御は全体の約2割

 日本の花火大会では20年ほど前からIT導入が始まった。花火評論家の冴木一馬氏は、「全国の花火大会のプログラムのうち2割くらいがコンピューター制御ではないか」と語る。音楽に合わせた演出を望む主催者の要望もあって、その割合は少しずつ増えているという。


配線までが完了した状態の筒。箱の手前側の袋にくるまれたものが点火装置。1台の点火装置で16本の筒に点火できる
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配線までが完了した状態の筒。箱の手前側の袋にくるまれたものが点火装置。1台の点火装置で16本の筒に点火できる
 中でも丸玉屋は年間約170件のプロデュースを手掛ける大手。花火大会は夏に集中するため、早いものでは4月ころから作業を始める。まず会場配置を見ながら、花火の色、高さ、大きさ、着火してから開くまでの時間などを計算して進行表を作る。それを基に、一つひとつの花火を打ち上げる場所とタイミングを、システムと連携する専用ソフトでプログラミングしていく。

 システムの導入で現場は省力化するように思えるが、実は「準備にかかる時間は3倍に増えた」(小勝社長)という。システム制御では、打ち上げる玉と筒を1対1で対応させる必要があり、「筒に個別のアドレスを割り振って、どの玉をどの筒に入れるかを決める」(小勝社長)。

現場に運び込む筒の数が従来より格段に増えたため、事前に筒に点火装置を配線しておく場合が多いという。打ち上げ当日は機材を設営し、所定の場所に設置した筒に玉を仕込んだ後、配線などをチェックする。制御システムには、微弱な電流を筒に流して結線状態を確認する機能がある。配線の接続誤りや断線などの異常があればパネル上に表示し、再度設定するという作業を繰り返す。


 かつては、打ち上げの瞬間に職人が筒の近くで花火に火を着けているのが一般的だったが、丸玉屋が手掛ける大会ではそうした光景はなくなった。現場のオペレーターは逆に、いざというとき点火を止める安全管理の役割を担う。

集中管理用のコントローラーから伸びた装置を常に握っており、このスイッチから親指を離すだけで打ち上げを止められる。強風が吹くなどトラブルが起きたときに、これで緊急停止するわけだ。

100%システム化でも情緒は消さず
丸玉屋の小勝敏克社長
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丸玉屋の小勝敏克社長

 コントローラーは1台で最大2047本の筒を制御できる。3249発を打ち上げた今年の中山競馬場の大会は、コントローラー1台ではまかないきれず、2台で制御した。

点火に使う配線は、音響設備などで一般的なキャノンコードだ。「取り回しが容易で、皮膜があるため丈夫で現場での配線に向いている」(丸玉屋茨城事業所の末広任所長)。点火装置には16個の端子があり、そこから「脚線」と呼ぶコードを1本ずつつないで筒の中にある点火玉に電気信号を送る。


中山競馬場で上がった花火。高く打ち上げる花火も取り入れて演出した
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中山競馬場で上がった花火。高く打ち上げる花火も取り入れて演出した
 小勝社長は「コントローラーから中継用の分岐装置までの配線を無線にできると、作業負担が大きく軽減する」と期待する。会場で使うコードは数十メートルに及んでおり、これを無線化できれば、引き回しの手間を大きく減らすことができるからだ。

もちろん混信や違法電波による誤作動の恐れなどがありすぐに切り替えるのは難しいが、海外では一部で無線の導入が始まっているようだ。


 丸玉屋が現在扱う花火はすべてシステムを通して打ち上げる電気点火となっている。ただ最初から最後まで機械的に打ち上げるのではなく、オペレーターがマニュアル操作で1発ずつ点火する演出も取り入れている。

「花火が開いた瞬間に次を出すなど、花火を知っている人間がその場にいてこそできる間の取り方がある。花火の情緒を損なわない演出を心がけている」と小勝社長は語る。










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